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2017.12.10

ニッポンの未来は?深刻化する空き家問題の今

日本各地で激増する空き家

戦後、焼け野原となった地から立ちあがり、新たな社会を構築、より豊かな生活を求めて、人々はがむしゃらに働いてきました。その中で生活の基盤となる住宅の建設も政策によって促進され、高度成長期の人口増加に対応すべく、マイホームの取得も奨励されて大量な新築住宅が、常に供給されることを当たり前とする感覚も広がっていったのです。

低い利率で融資を行う住宅ローンにも支えられ、多くの新築戸建住宅、集合住宅が生み出されましたが、ここにきて少子高齢化、人口減少社会の到来などに伴い、空き家が急増、大きな社会問題としてクローズアップされています。経済成長を遂げて安定期を越え、再び大きな転換点を迎えている日本社会のひとつの象徴ともいうべき空き家問題について、その現状をみてみましょう。

総務省統計局のまとめた2013年の住宅・土地統計調査によると、空き家の数は直近5年で8.3%増加、820万戸を数えるまでになっています。とくに一戸建住宅の空き家が多く、2008年~2013年で新たに生じた空き家物件のうち、約8割を戸建が占めているのです。

日本の空き家率は、戦後から一貫して上昇傾向にあったものの、ここ20年の増加は著しく、1993年から比べると約4割も増えています。今後もこの傾向に歯止めがかかることはなく、野村総合研究所の試算では、2033年の住宅全体に占める空き家割合は30.2%となりました。身の回りで、実に3軒に1軒は空き家という時代が現実になろうとしています。

どんな空き家が増加?なぜ問題に?

“空き家”と一口に言っても、さまざまなタイプがあります。国土交通省などによる主な定義で大別すると、常に居住してはいないがまれに使われる「二次的住居」、新築または中古で賃貸や売却を目的としているが契約が成立していないため空き家となっている「賃貸用または売却用の住宅」、そして転勤や入院による長期不在や建て替え、取り壊し予定など、その他の理由で人が住んでいない「その他の住宅」です。

空き家問題として深刻なのは、やはり「その他の住宅」でしょう。このタイプ別で空き家増加の推移をみると、この20年で「二次的住宅」はほぼ横ばい、「賃貸用または売却用」の増加率は緩やかになってきていますが、「その他の住宅」の増加率は加速的に増え続けています。一時的な空き家状態ではなく、長期にわたって人が居住しないままの住宅、不十分な管理で放置された空き家が確実に増加しているのです。

こうした空き家が増加することで懸念される問題には、どのようなものがあるでしょうか。まず定期的な換気や適切なメンテナンスが行われないまま老朽化すると、台風や地震など小さな災害でも倒壊する危険が高まります。周囲にも人的・物的被害を与えてしまう可能性があるでしょう。

雪の多い地域などでは、積雪による重みで壊れたり、倒木・落雪の危険が高まったりすることもあります。繁茂した雑草や住宅の傷みによって周囲の景観が悪化するほか、野生動物が住処としたり不法投棄を誘発したりすることで衛生環境も悪化しがちです。不審者が侵入して住み着いたり、放火を誘発したりと治安悪化につながるケースも少なくありません。

空き家は周囲の住環境に深刻な影響をもたらし、住宅地としての価値を大幅に低下させてしまうのです。

なぜ増える?空き家発生の原因と今後

空き家が増加する原因には、さまざまな要素が考えられます。核家族化と都市への人口移動の進行で、取り残された高齢者が高齢者施設に転居したり、死亡したりして空き家となるケースが増加していること、中古ではなく新築を好む日本人特有の性質、相続による管理者の不明瞭化などが代表的なものですが、個々における事情は複雑です。

まだ十分に住宅として機能させられる物件であっても、他人を入れることに抵抗感があったり、地域自体の過疎化が進んで買い手や借り手が見つからなかったり、家財道具や仏壇などが残されていて手放せないケースもあります。

適切に管理がなされていれば、少なくとも周囲に深刻な悪影響を与える空き家となることはありませんが、相続人や管理者が遠方に住んでいる場合、なかなか目が行き届かなくなるのも無理はありません。

所有者が撤去を考えても、多額の解体費用発生や更地にすることで生じる固定資産税の増加から躊躇することもしばしばです。売却や建て替えなど、後の利活用目処が立っていなければ、ただ高額な負担だけがかかることを積極的に行う人はないでしょう。

こうして放置された空き家が問題を引き起こすものとなっても、やはり住宅として個人の資産であるため、国や自治体が勝手に処理をすることはできません。そこで対策として、市区町村にこれまでなかった法的な根拠と権限を与え、空き家の所有者に撤去を促したり、最終手段としては代執行で処理したりする取り組みが始まっています。

また税制面の見直しや助成制度で、中古住宅としての再活用、流通の促進を図るケースも増えてきました。まだまだ課題は多くありますが、地域の実情に沿う対策を、国をあげて展開し、皆で空き家問題の解消に向けた努力を続けていかねばなりません。

(画像は写真素材 足成より)