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2017.11.22

不動産鑑定士はどうやって住宅価値を決めているの?

複雑な要因からなる価値、鑑定の基準は?

不動産の価値は簡単には分かりにくく、価格もさまざまな要素によって左右されてくるものです。不動産鑑定評価という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、これは該当する不動産のもつ経済価値を判定し価格として示すもので、国土交通省または都道府県に登録されている不動産鑑定業者にのみ行うことが認められています。そしてこうした業者の業務として、実際に不動産の鑑定評価を行うのが、国土交通省に登録されている不動産鑑定士です。

では不動産鑑定士は、どのように価値を評価しているのでしょうか。ひとつとして同じものがなく、さまざまなタイプが存在する中古不動産を、公正に、また合理的に評価するため、どういった方法や基準を用いているのか、簡単に解説しましょう。

不動産鑑定士は、「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づいて制定された「不動産鑑定評価基準」という統一的な基準に基づいて鑑定評価を行っています。社会における価格秩序のなかで、対象不動産の価格がどのような位置どころを示すか、高度な知識と豊富な経験、的確な判断力をもって評価し、通常の物品取引において機能しているような合理的な市場の評価機能を、特殊性の強い不動産において代替し、機能させることが目的で、不動産鑑定士は鑑定評価にあたり、常にこの基準に準拠すべきと定められているのです。

不動産鑑定評価基準は、これ自体が通常の法令のように扱われるものではありませんが、鑑定士が評価の拠り所とすべき統一的なものであることは法的に定められています。内容は全般について基本を定めた「総論」と、不動産種別を踏まえた具体的評価指針を示す「各論」で構成されており、時代に応じた改正を経て運用されてきました。1964年に初めて制定され、現在は2014年に改正されたものが有効となっています。

評価の流れを理解しよう

不動産鑑定士は、まず鑑定評価の依頼を受け、対象となる中古住宅など不動産の確認を行います。権利関係や状態確認、関連する事例など各種資料の収集も進めます。どういった権利を評価するのか、またいつの価格を評価するのか明確にし、地域や個別物件の市場分析を通して、価格形成要因に関する分析を行います。

価格形成要因には、自然的な要因や社会的要因、経済的要因、行政的要因をあわせた一般的要因と、一般的要因の相関関係で形成された地域特性、その地域に属する不動産に影響を与える地域要因、土地や建物、その敷地区分といった個別的要因の3つが挙げられます。

不動産鑑定士は、こうした対象となる不動産の関連資料を十分に集め、検討した上で、実際の価格を算定する評価方式を用いた評価を行います。一度試算価格を出したらさらに調整を図り、最終の鑑定評価額を決定、鑑定評価報告書を作成して、評価額とその決定事由、自らの判断や意見を提示するという流れになります。

鑑定評価には複数の手法があり、価格に関しては主に3つの方法がとられています。原則としてこの3つを併用することとされますが、不動産の特性に応じてどう用いるかが決まります。

1つは「原価法」で、今売りたい不動産と全く同じものを建てたとしたら、どれくらいの金額が必要になるかを計算し、建築後の経年劣化による価値低下分を差し引いて現在の価値として算定する方法です。中古住宅では、これが最も一般的に用いられます。

2つ目は「取引事例比較法」というもので、似たような条件での不動産取引事例を参照して比較し、価値を決定する方法です。市場動向や地域要因などを加味して調整し、試算としての価格を割り出します。

3つ目は「収益還元法」で、その不動産が将来生み出すと考えられる利益を見据え、価値を決定するものです。主に投資目的での不動産価値算定に用いられ、一定期間に生み出される純利益を還元利回りで還元する直接還元法と、連続する複数の期間で発生する利益と価格を、発生時期に応じて現在の価値に割り引き、それぞれを合計して価値とするDCF法の2種類があります。

このように評価は法律に基づき、統一された不動産鑑定評価基準に則って行われるもので、一定の時間と費用がかかりますが、一般の人では分かりにくい不動産の適正価格を、プロフェッショナルな視点、多角的な観点から明示してもらえるものとなっています。

なお、より短期間で安価に目安となる価格を知りたい、中古住宅の売出価格を決める参考材料にしたいといったニーズに応えるものとして、「不動産価格査定書」の作成も行われています。不動産鑑定評価書のように正式な統一基準に則ってはいないものですが、手軽に不動産鑑定士のサービスを受けられ、物件の時価を素早く把握できるメリットがあります。

売買や相続などですぐに時価を知りたい場合などは、この価格査定書を利用し、参考とするのもよいでしょう。シーンにあわせた使い分けをおすすめします。

(画像は写真素材 足成より)