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2018.1.25

増える所有者不明土地、公共サービスにも忍び寄る深刻な危機

山間部から都市にまで増え続ける所有者不明の土地

人口の減少と核家族化、急速に進む少子高齢化などを背景に、相続をめぐる問題が複雑化する中、持ち主が特定できない所有者不明の土地が全国で問題となってきています。所有者が特定できない場合、その土地を活用することができず、住民生活を支える公共事業や災害対策事業、復旧工事の妨げになってしまうのです。近年、増え続けているとされるこの所有者不明土地について、現状を探りました。

国土交通省のまとめによると、同省の平成28年度地籍調査における土地所有者等に関する調査で、不動産登記簿上、所有者の所在が確認できない土地は約20%にのぼりました。この値は、所有者探索を行う人が利用できる台帳が更新されていない、登記名義人やその相続人など所有者の居所や生死に関する特定が直ちには行えない土地、数代にわたって相続登記がなされず相続人が多数となって特定が困難になっている土地、所有を共有する者の記載が「外8名」など不明確な土地といったものも含まれた“所有者の所在把握が難しい土地”にあたる広義の解釈となっているため、より詳しい探索を行って最終的に所在が全く不明な土地、最も狭義の所有者不明土地に限定すると、全体の0.41%だったとされています。

また、法務省が不動産登記簿における相続未了土地調査を行ったところ、全国10箇所約10万筆で、最後の登記から50年以上経過しているケースの割合は、大都市圏で6.6%、それ以外では26.6%にのぼり、潜在的な所有者不明土地が多く存在することが明らかとなりました。

これらの調査結果を受け、有識者らの所有者不明土地問題研究会が、全国の拡大推計を行ったところ、現時点の所有者不明率は20.3%、土地面積にして実に約410万ヘクタールが所有者不明の土地として問題になっていると指摘されたのです。これは九州の面積368万ヘクタールを大幅に上回る値であり、衝撃的というほかありません。

農林水産省でも、相続未登記農地の実態調査を行っていますが、最新の調査結果で相続未登記またはそのおそれのある農地の面積は合計約93万ヘクタールで、全農地面積の約2割にのぼるとされています。後継者不足も深刻な中、今後これらの土地が耕作を放棄された荒れ地となり、所有者不明の整備できない土地になっていく可能性は高いでしょう。

本来は大切な資産となるはずの土地で、なぜこれほど誰のものか分からないケースが増加しているのでしょうか。

最大要因は相続未登記、背景に価値とコストの問題も

一般に土地の所有者に関する情報は、不動産登記制度によって管理されています。にもかかわらず、なぜ所有者が分からなくなってしまうのか、その大きな要因として挙げられるのが相続未登記の問題です。

土地や住宅の所有者が死亡した場合、新たな所有者となる相続人が相続登記を行って不動産登記簿の名義を変更する手続きを行います。しかし、この相続登記は義務ではなく、あくまでも相続人本人が自主的に行うものとされているほか、いつ行ってもかまわないことになっています。

そのため手続きが行われなければ、不動産登記簿上の名義は死亡した先代のままとなります。該当する土地を何らかのかたちで新たに活用しようとすれば、その段階で初めて不都合が表面化し、手続きが必要になりますが、長期にわたって放置されている間に世代交代が進み、法定相続人が子へ孫へと広がってねずみ算式に増加、本人が相続人にあたることを自覚していないことも珍しくないほど、登記簿情報と実態の乖離が生じ、特定が困難な事態となってしまうのです。

また、山間部などそもそも古い年代の登記で情報が不完全であるため、権利関係が不明確でたどりづらくなっているケースもあります。こうした地域でも年々、住民同士のつながりは希薄化し、聞き取りによる調査も難しくなっていることから、さらに所有者不明の土地が増える傾向にあります。

所有者が明らかとなっても、適正な登記が進むとは限りません。近年の公示地価をみると、大都市圏は上昇していますが、郊外では地価下落が進むなど二極化が顕著になっています。今後も少子高齢化により、利便性の面からその差は拡大していくでしょう。過疎の進む地域など、地方では土地が安くなっていくばかりです。

土地の所有者となることは、それを自己所有資産とすることであり、固定資産税や維持管理にかかる継続的なコストの負担を引き受けるということでもあります。売却しても二束三文にしかならない市場価値の低い土地を相続した場合、資産どころか過大な負担のみが重くのしかかる事態になり得るのです。これでは、任意の相続登記が進むはずはありません。

さまざまな開発の足枷に

こうして所有者不明の土地は全国で増加してきています。所有者不明土地が存在していると、公共インフラとなる道路の敷設や安全性・利便性の観点から進められる河川改良事業や急傾斜地への対策事業、公園整備事業などの妨げになります。有効活用を図るための農地集約化や災害復旧の場面でも同様です。

いずれの場合も、計画の一部でもそうした土地が存在する場合、所有者を特定するため相続人とみられる全員の戸籍謄本や住民票の写しなどを取得して相続関係図を作成し、法定相続人を特定、個々に同意を得なければなりません。100人、200人といった人数になることもあり、さらにそれらの中に所在不明や海外在住で連絡のつかない人が含まれていれば、手続きの煩雑さは増すばかりです。

空き地や空き家が周囲の環境を害したり、危険をもたらしたりするものとなっていても、所有者がこのように不明である場合、原則として国や自治体も手を出すことができません。もちろん所有者不明では課税も行えませんから、税金の公平な負担という観点からも大きな問題が残ります。

空き家に関する対策など、一部で具体的な取り組みもスタートしていますが、今後は個人の所有権と公共の福祉、公益に資する利用の権利などについて、新たな仕組みを整備することも必要となるでしょう。

(画像は写真素材 足成より)