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2018.1.25

日本でも関心高まる米国不動産取引のエスクロー制度とは?

米国不動産取引の独特なシステム「エスクロー制度」を知る

海外の不動産取引に興味・関心のある方ならば、「エスクロー」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。エスクロー制度は、契約取引を安全・確実に履行するための仕組みとしてアメリカで考案されたシステムで、同国における不動産取引、とくに中古住宅取引で頻繁に活用されています。

近年は、インターネットオークションなど他の領域における商業取引決済シーンでも採り入れられるケースが増えているほか、日本国内でも、住宅の工事代金授受に関し、専用の信託口座を設けた「住宅エスクローシステム」が導入されるなど、この仕組みへの関心が高まってきました。一方で注目度の高まりに対し、まだ内容を十分に理解できている方は少ないように見受けられます。そこで今回はこの「エスクロー制度」について、詳しくみていくこととしましょう。

エスクローってそもそも何?

「エスクロー(escrow)」とは、フランス語の巻物を意味する「escroue」を語源とする言葉で、英国で権利譲渡証書や条件付捺印証書のことを指して使われてきました。これが商取引の際に、信頼の置ける中立的立場の第三者を介在させ、関係書類や代金を一時的に預けることで、その安全な履行を担保する第三者預託として用いられる仕組みを指すようになり、アメリカにおける不動産取引の決済保全制度として発展、西部諸州を中心に、法律に基づく制度として根付いていったのです。ちなみに、その発祥は1947年のカリフォルニア州といわれています。

不動産取引では、動く金額がまとまったものとなるため、売買を行う当事者にとっては、日頃の購買活動や契約・商取引のシーン以上に、高い安全性へのニーズがあります。日本の中古住宅市場をみても、やはりその売買取引に対する不安感や事後のトラブル報告が活性化を妨げている面があります。こうした取引に求められる安全性や公平性、適正な履行を確保するのがエスクロー制度なのです。

不動産取引におけるエスクローの概要

仕組みの全体を簡単にみていきます。不動産の売主と買主、第三者としてエスクロー会社が関与します。売主と買主が同意して売買契約書を締結したら、その契約書をエスクロー会社に渡します。エスクロー会社は専門の調査会社などに依頼し、不動産権原に関する調査を実行、弁護士によって作成された新たな権利書を得ます。

この権利書に売主・買主はそれぞれエスクロー会社を通して署名し、取引を進める確認を行います。ここで買主は購入代金をエスクロー会社に預けておきます。入金を確認したエスクロー会社は、署名の揃った権利書を登記所に提出し、不動産の権利移動を登記、登記済権利書を受け取ります。

登記完了後に売主はエスクロー会社から売却利益となる代金を受け取り、買主には権利書や鍵などが引き渡されることとなります。この取引完了をもってエスクロー会社は所定の手数料を請求し、自社の利益とするのです。

登記変更にかかる手数料や弁護士費用、固定資産税の日割り、ローンがある場合はその日割り利息、不動産仲介業者を利用した場合はその手数料などもエスクロー費用として買主から預かった代金からマイナスし、精算・控除を行った上で売主に支払いを行うのが一般的で、金銭取引の安全性を確保するだけでなく、権利関係の調査から登記までを、エスクロー会社が実質的に代行してくれる仕組みになっているといえるでしょう。

専門性の高い分野の各プロセス進行を全面的にサポートしてもらえることに加え、日本のように不動産仲介業者だけが間に入るのではなく、厳しい許可基準をクリアしたエスクロー会社が入ることで、透明性の高い取引が可能となり、不動産仲介業者の両手数料を狙った情報の囲い込みといった悪習も防ぐことができます。

日本の場合では、不動産仲介業者が売主または買主のいずれか側についている可能性があり、それが明確でないまま取引が進行することがあり得ますが、アメリカの場合は売主側の不動産会社(セラーズエージェント)、買主側の不動産会社(バイヤーズエージェント)がはっきり区分されており、セラーズエージェントは過去の取引記録を確認しながら、売主に適正な情報開示書の交付を行わせ、バイヤーズエージェントは買主が有利になるよう、保護を行いながら取引のリードを行います。

建物検査は買主の責任下で自主的に行うものとなりますが、最初の契約後に売主側が行うシロアリ検査や駆除の実施確認、給排水管設備や雨漏りなどの検査、修繕完了の証明書といった住宅の品質にかかるチェックも書面としては、エスクロー会社が第三者の立場から実行してくれ、品質の保証もされやすくなります。

このようにエスクロー制度は、複数の介在者を設けるため、それだけ手数料としての費用が余分に発生する面はあるものの、売主・買主ともに取引中の高水準な保護が図られ、安心・安全が担保されるという大きなメリットをもたらすものとなっているのです。

エスクローについて、概要をつかむことができたでしょうか。日米の違いも理解しながら、ぜひ注目の仕組みとして知識をつけておきましょう。

(画像は写真素材 足成より)