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2018.1.25

増加の一途をたどる所有者不明土地、今後の対策は

公共利用や地域の安全も脅かす所有者不明土地の増加

近年、少子高齢化や核家族化、地方における深刻な過疎化、地価の二極化などを背景に、誰が持ち主であるかが分からない所有者不明土地が全国で増加してきています。

相続時における不動産登記簿上の変更手続きが行われないまま長年放置され、実態と乖離した状況で法定相続人の数だけがねずみ算的に増加しているケースや、資産価値が低下して保有することが固定資産税や維持・管理コストの負担に見合わないものとなり、手をつけることが避けられているケース、古い地縁・血縁社会での慣習からそもそも登記上の情報が不足しているケースなど原因はさまざまですが、とくに深刻なのは相続が関わる前2例のようなものです。

こうして生まれる所有者不明土地は年々増加し、有識者らの研究会がまとめた調査結果では、日本全国で合計410万ヘクタール、九州の総面積をゆうに上回るところまできているとされ、大きな社会問題の種になっています。今回はこの増える所有者不明土地への対策をみていきましょう。

所有者不明土地で生じる問題

所有者の所在や生死が直ちに判明しない、あるいは判明しても連絡がつかないような所有者不明土地は、管理者も不明となりますから、必然的に荒れ地となり、周辺地域の景観や治安悪化を招きます。課税対象者も特定できませんから、税の公平負担上も問題ですし、財政面にも大きな影響を与えるでしょう。

また、公益に資する道路や公園、河川の整備、農地の集約化、土砂災害の防止をはじめとした防災整備、災害発生後の復旧復興といった事業を進める際、対象となる計画地が一部でもそうした所有者不明土地にかかっていると、その所有者を捜索し同意を得る手続きを進めなければならないため、スムーズな事業推進の大きな妨げとなり、コスト・工期とも大幅な見直しを強いられることになります。

二次災害の発生が懸念される場合や、救急車両が通行できないといった緊急性が高い場合も少なくなく、広く市民生活に支障をきたすものとなっているのです。

ガイドラインの策定、抜本的な制度改革も視野に入れた政策論議へ

このように公共事業の停滞・遅延や、土地の有効活用の妨げと税収面による経済的な損失を生む所有者不明土地は、今後さらに増加すると見込まれることから、早急な対策が必要になっています。そこで国土交通省では、現在次のような取り組みを進めています。

まず、所有者をよりスムーズに探索・特定できる環境を作るため、探索方法の整理や活用できる補助制度の紹介、活用事例など現場の実務に活かせるガイドラインの策定や、保存期間経過後の除票活用、弁護士会や司法書士会、土地家屋調査士会、不動産鑑定士協会連合会など関連する団体とも協力したサポート体制の構築を行い、多様な状況に応じた所有者特定の負担軽減を目指しています。

また、相続登記を促進すべく、法務局と司法書士会が連携して行う市区町村での死亡届受理時などにおける働きかけ周知、土地への関心が高まる機会の創出も進めています。

さらに公益性のある事業利用で明確な反対者がいない場合、都道府県知事の裁定で、所有者不明土地の利用も可能とするための特別措置法案を提出する予定ともしており、こちらはより現実的で実効的な策として期待されています。

この新制度が実現した場合、土地利用を計画する自治体などが都道府県知事に申請を行い、知事は地元の意見などから裁定、土地の利用権を権限で設定できるようになります。ただし利用には期間の限定をつけ、所有者が現れなかった場合の更新制とすること、所有者が現れた場合は原状回復して明け渡すか、あらためて了解を得ることともしています。所有者がのちに現れた場合に備え、利用期間中の賃料に相当する金銭の供託も行っておくということですから、私有権も守られるでしょう。

しかし、こうした取り組みで十分とはまだいえません。所有者不明土地が発生するそもそもの主要要因として、不動産登記の手続きが任意となっていること、いつ行ってもかまわないことがあるため、相続や所有権移転が発生していても、不動産登記簿の整備がなされるとは限らないという点があります。

そこで、有識者らによる研究会では、情報の更新が担保され実際を反映したものとなるよう、不動産登記の義務化やそれに伴う罰則の制定を求める提言を出しています。ここではあわせて遺産分割協議が未了など相続登記できない事情がある場合は、現所有者の法務局への届出を義務化するとの案も書き込まれました。

また、手続きを行わなくとも当人らに支障が生じない現状を変え、相続登記にかかる登録免許税の減免措置を創設、費用負担を軽減するなど自発的な相続登記を促すこと、法務局内にある死亡届情報を活用することも提案されています。

このほか、現行では土地所有権を放棄する明確な規定がないため、管理困難な土地は手放せる制度の創設や、マイナンバー制度の不動産登記における活用、手続きを簡略化する公式のポータルサイト開設なども案として挙げられました。

国としても、社会情勢の変化を踏まえた新しい国土政策や土地制度について、長期的な視点からの政策論議が必要としており、今後抜本的な改革を視野に入れた動きが本格化する可能性があります。

こうした問題は日本ばかりでなく、他の先進国などでもみられ、米国ではランドバンクと呼ばれる媒介組織が、管理されていない土地や老朽化した住宅物件を取得し、地域のニーズに合わせて売却やリース、保全を行うといった事業を公的に展開することで対応しています。

土地の権利と利用に関しては、地域文化に根付くところが大きく、そのまま日本に適用できるものではありませんが、こうした海外の先駆的事例も参考に、幅広く対策が検討されるべき時期に来ているのではないでしょうか。今後の動向を注視しつつ、私たちひとりひとりも考えていくべき問題となっています。

(画像は写真素材 足成より)