どんなに優れた品質と性能をもって上部に建てられた建築物でも、完成して使用され始めれば、必ず痛みを生じてくるものです。いかに価値の高いマンションであっても、経年劣化は避けられません。そのため、適時適切なメンテナンスを施していくことが、快適な住環境と価値保全・向上のため不可欠です。
こうした観点から、優良なマンションであれば、管理組合や管理会社などがしっかりと作成した長期修繕計画書があり、これに基づいて大規模修繕工事などが実施されますが、いざ施工準備となると一筋縄にはいかないケースも多いのが実情です。そこで、うまく見積もりをとり、賢く無駄なく、確実に、適切な修繕・改修を行えるように導くためのポイントをここでおさえておきましょう。
長期修繕計画書で実施時期を設定していても、実際にその時期が近づいてくると、外観や機能面でさほど目立った問題が感じられていない場合、まだ行わなくてもよいのではといった意見が出ることがあります。また逆に、どうせ実施するならより付加価値をつけてほしい、トレンドを反映したさらなるリニューアルの同時実施を求める声が出ることもあるでしょう。
こうしたさまざまな意見を踏まえながら、かつ万が一気づいていない故障や劣化も早期に洗い出し、適切な工事内容の決定や見積もり比較、業者選定を進めていかねばなりません。こうした作業は思う以上に大変です。
関係者の意見が割れたままでは前へ進めませんし、計画書段階ではピックアップされていなかった対処しておくべき点がないか、確認もしておきたいですから、まず事前準備として現状を可視化し、的確に把握できるよう、必要な診断を受けることがおすすめです。
管理会社や建築士事務所などに相談し、建物や住宅設備の劣化度を第三者的立場のプロの目でチェックしてもらいましょう。この結果と長期修繕計画を突き合わせ、根拠を提示しながら必要と考えられる工事内容を議論すれば、安心かつスムーズに進められます。グレードアップを図る追加工事の実施については、区分所有者を対象にアンケートを実施し、意向をまとめるのもよいですね。
希望する工事の項目がある程度決定できたら、いくつかの業者を選び、現地調査を行って見積もりを出してもらいます。まとまった費用がかかるものですから、複数業者から見積もりを取得し、比較することはもちろんですが、その候補を選ぶ際も問題を残さないよう、配慮が必要です。
建物を建築した業者か、管理会社の推薦業者か、近隣で評判の良い業者か、理事や委員会のメンバーが勧める業者かなど、さまざまな事情が絡みがちですから、漫然と選び出すのではなく、明確な根拠をもって候補を提示するようにしましょう。業者の規模や直近の施工実績、工事保証の内容などが絞り込みのポイントになります。
多すぎても選考が困難となりますから、5~10社程度には候補を決めて見積もりを依頼します。依頼を行う際には、できるだけ具体的に、どういった工事をどの範囲で希望しているか伝え、比較しやすい状態を整えておきます。
提出された見積もりは、公平を期すため、管理組合で一斉に開封するようにすることが望ましいでしょう。開封したらそれぞれの比較に入りますが、業者によって仕様や詳細な部材の数量などがどうしても異なるため、比べにくいといったことが生じがちです。
可能ならば見積書の項目別比較一覧表を作り、それぞれの業者における内容、単価、金額を記入していきます。作成が難しい場合には、どれかひとつの業者の数量や工法を基準にして概要書を作り、同一の条件下で再び見積もりを出してもらうようにしましょう。「一式」といった大まかにまとめた書き方をしている業者には、きちんと内訳を説明してもらい、その内容を口頭確認ではなく、書面にしてもらうようにしておくことも大切です。
価格を比較する際には、工事単価だけでなく諸経費や消費税にも注意し、詳細部分まで丁寧に確認しましょう。追加費用が発生しないよう注意し、計画した修繕予算を超えないようにします。
予算内であれば、金額にとらわれずより良い業者を見極めることも重要ですね。それぞれ業者によって得意不得意がありますから、見積もりとあわせて施工実績資料も提出してもらうなどし、精査することをお勧めします。
また、条件をそろえるために提示した方法以外に、最適と考える方法があるならば、それについてもプレゼンテーションや見積もりをお願いし、案として比較検討するとよいでしょう。いずれにしても不明点を残さず、気になる点があればその都度丁寧に確認をとって進めます。トラブルを回避しながら、うまく見積もりをとって最適な工事の実施につなげましょう。
(画像は写真素材 足成より)