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2017.12.11

人事にあらず!深刻化する空き家問題、各地の対応は

社会問題として注目される空き家問題

近年、ニュースなどを通じ、「空き家問題」という言葉を耳にするケースが増えています。この問題は、少子高齢化や人口の減少、新築を好む日本人特有の住まいに対する意識、居住地域を偏らせる人口移動の変化や多様化するライフスタイルなど、さまざまな要因が絡み合って発生している現代的なものであり、表面化するかたちに違いはあれど、過疎の進む地方のみならず、都市圏でも実際に空き家率が上昇してきているのです。

野村総合研究所の調査によると、2033年には全国で約2,150万戸の空き家が発生するとされ、率にして30.4%、実に3軒に1軒は空き家という事態が現実のものになるともいわれています。もはや誰にとっても人事ではない空き家問題、今回はその対策状況について解説します。

対応状況をみていく前に、そもそも空き家が増加すると、どのようなことが問題になるのでしょう。まず、長年にわたって放置され、適切な管理が行われないまま著しい老朽化が進むと、建築材が飛散して通行人に被害を与えたり、ちょっとした揺れで倒壊したりといった人的・物的損害を生じさせる可能性があります。

また、ごみの不法投棄がなされたり、放火の対象になりやすかったりと周辺の住環境を悪化させ、治安が悪くなる場合もあります。火災が発生すれば延焼が起きやすく、救急車両の妨げになるケースも少なくありません。地域の活力も失われ、景観的な魅力も低減、悪循環に陥りやすいと考えられるでしょう。十分な住機能を有した空き家に関しては、資産・資源として有益に活用されないことだけでも、大きな社会的デメリットです。

住宅は基本的に個人の資産ですから、国や自治体が調査や処分にあたるなど勝手に介入することはできません。だからといって一切対策を講じることなくこの状況を放置すれば、問題はさらに深刻化と拡大の一途をたどり、国民生活の基盤を揺るがすものとなりかねないでしょう。

法的整備で対応を開始

そこでまず既存の法律では対処できない問題であることから、国は「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)」を制定、2015年2月の一部施行を経て、同年5月より完全施行とし、具体的な対策を進めてきています。

この法律により、周囲に悪影響を与える危険な状態の空き家を「特定空き家」に指定し、市区町村から所有者に必要な措置をとるよう指導したり、不十分な対応しかなされない場合には行政代執行法による解体処理などを実行したりすることが可能となりました。「特定空き家」に対しては固定資産税の優遇措置を撤廃することも明文化され、所有者に積極的な空き家の管理や撤去といった行動をとらせるようにもなっています。

また、市区町村による「空家等対策計画」の策定、「法定協議会」の組織化を促す内容も盛り込まれ、全体として、これまでよりも大きな権限をもった自治体が、それぞれの状況にあった対策を具体的にとれる法的根拠を整えたかたちとなりました。

では実際に各地では、どのような対策がどの程度進んでいるのでしょうか。国土交通省が2017年6月27日に公開した市区町村の取り組み状況に関する調査結果によると、法の施行から2017年3月31日までの累計で、「特定空き家」の所有者に「助言・指導」が行われたのは6,405件、「勧告」が267件、「命令」が23件、「代執行」は11件、「略式代執行」が35件となっています。

直接的な措置がとられたケースはまだまだ少なく、比較的件数の多い「助言・指導」でも、実施した市区町村の数は314で、全体の2割に満たないなど、まだ多くの自治体では実績がない状態であることが分かります。

一方で、「空家等対策計画」の策定は進んできており、2017年度末には891の市区町村、全体の51.2%が対応する見通しとなっています。それ以降の策定予定としている地域もあり、それぞれ、何らかの取り組みを実施していくことを打ち出す傾向は強まっているといえるでしょう。

「法定協議会」については、設置済みとした市区町村は2割強で、設置が5割を超える地域がある中、1~3市町しか設置されていないところもあるなど、温度差がみられます。

空き家対策特別措置法以外の国による取り組みでは、2016年度の税制改正で、古い空き家を売却すると譲渡所得で3,000万円の特別控除が受けられるものとされ、いくつか条件があるものの、先の調査内で明らかにされた控除に必要な確認書の交付実績をみると、こちらの利用は大都市圏を中心に進んできているようです。空き家を資産として活かし、流通を促進させることに一定の効果が出ているといえるでしょう。

先進的な取り組みが進む地域も

より地域の実情に即した、先進的取り組みが進んでいる地域もあります。山形県酒田市では、地域の自治会と空き家所有者との相互連絡を促し、管理不全となった空き家が生じないよう、自治会による空き家の見守り活動を支援したり、自治会による空き家の見回りと市への報告の仕組みを整えたりしています。

また相続人が不明または不存在の老朽化が進んだ空き家については、市が利害関係人となって家庭裁判所へ相続財産管理人の選任申立てを行い、選任された管理人による清算で市税の回収や適切な解体処置などが実行されるようにもしているそうです。

京都府京都市では、地域団体が主体となった空き家の発生予防や活用などの取り組みを行政としても支援し、専門家の紹介やアドバイスの提供、経費助成などを行っています。

空き家を除去した跡地にかかる固定資産税を一定期間減免し、所有者の負担を軽減することで、放置された状況の打開を図る地域もあり、新潟県見附市や富山県立山市、福岡県豊前市、鳥取県日南町などがこの制度をとり入れています。

全国的に広がっている取り組みでは、空き家の所有者と住まいを求める人をつなぐ「空き家バンク」もあります。この物件情報提供の仕組みに加え、利用を促進させる金銭的な支援措置も導入されてきており、これによる空き家の利活用も期待されるところです。

現時点ではまだまだ着手されたばかりの空き家対策ですが、地域における問題の特性も踏まえたかたちで、さまざまな角度からの取り組みやサポートが実行されていくことが望まれます。

(画像は写真素材 足成より)